ヘッドレスなのに”普通のギターの顔”をさせたかった話
木の匂いがまだ残っているボディを、初めて膝に乗せた。
思っていたとおりの形だった。図面で何十回も見た輪郭が、そのまま手の中にある。ヘッドレスなのに、抱えた感触はいつものテレキャスとほとんど変わらない!!!狙いどおりだ、と思った。
そして、チューニングをしようとして指を伸ばした。

このボディは、採用しないことにしました。今回はその話です。
そもそも、なぜ「普通の形」にこだわったのか

いま作っているのはヘッドレスギターです。ネックの先端にあるヘッドを持たず、ボディ側でチューニングする構造。軽くて、バランスが取りやすくて、持ち運びもラク。いいことだらけに見えます。
ただ、ヘッドレスギターの多くは、ボディの形そのものが独特です。ストランドバーグに代表される、角と曲線を組み合わせたあの形。
あれをディスるつもりは1ミリもありません。むしろ理にかなっています。座って弾くときにギターが自然に斜めに構えられるよう、ボディ下部が大きく削られている。ネックを立てたクラシックフォームでも構えやすい。
僕がいま使っているヘッドレスも同じ構造で、実際よく考えられていると思います。
それでも今回、あの形にしなかった理由があります。
フレット数を書き込んだギターの話
僕は現場で、ストラトやテレキャスとヘッドレスを持ち替えます。曲ごとに、ステージ上で。
実は僕のツアー用のギターケースには、全部弦の幅とフレット数を書き込んであります。
なぜか。持ち替えた瞬間、その些細な違いでピックを空振りするからです。もっと怖いのは譜面を読みながら弾いているとき。9フレットのつもりで押さえたところが、実は12フレットだった──これが本当に事故になる。
数ミリ、1フレット。ステージ上で興奮してる演奏者にとってはそのくらいの差が命取りになります。
だとしたら、ギターを持ち替えるたびに身体への当たり方や構える角度まで大きく変わるのは、僕にとってリスクでしかない。ヘッドレスの機能は欲しい。でも構え心地は、いつものギターのままがいい。
これが出発点でした。
譲れなかった3つの条件
その考えから、最初のボディには3つの条件を置きました。
1. 特殊な切り欠きを作らない 座って構えるための専用のえぐりは設けない。ボディの下側と背面が、普通のエレキと同じように身体に当たる形にする。
2. ストラップピンはボディエンドの中央に ヘッドレスは端にチューナーがある関係で、ストラップピンが横にずれたり特殊な位置になったりしがちです。でもピンの位置が変われば、立って構えたときのバランスも、身体への当たり方も変わる。ここは普通のギターと同じ場所に置きたかった。
3. ボディ下部に大きな切り込みを入れない ヘッドレスはボディ下側のチューナーを指で回します。だから多くのモデルは、指が届くようにボディを大きくくり抜いている。合理的です。でも今回は、ひと目見たときに「特殊すぎない」まとまった外観にしたかった。
要するに、ヘッドレスの機能を持ちながら、顔は普通のギター。それが1本目で目指した形でした。

図面上では、完璧だった
この条件を実現するために、製作側やギターデザインに詳しい方と何度もやり取りをしました。
ボディの寸法。チューナーの位置。ストラップピンの場所。そしてチューニングのときに指を入れるスペース。ひとつずつ確認しながら詰めていきました。
図面上では、必要なスペースは確保されていました。関わってくれた方からも「構造的には問題ないだろう」という言葉をもらっていた。
だから僕も、ボディが上がってくるまでは大丈夫だと思っていたんです。
実物が教えてくれたこと

チューナーは、回せます。回らないわけじゃない。
でも指を差し込む角度と余白に余裕がなくて、僕にはとても「操作しやすい」とは言えない状態でした。
1回合わせるだけなら、気にならない人もいると思います。でも僕の使い方では、そうはいかない。ライブ、レコーディング、レッスン。チューニングは1日に何度も行います。弦を張り替えた直後なら、それこそ何度も。ステージでは曲間の数十秒で合わせなければならない場面もある。
その毎回に、わずかな引っかかりがある。
そこを「まあ慣れるだろう」で通すのは、自分のギターとして違うなと思いました。
数ミリの差が、握った瞬間に全部わかる。ギターは身体に抱えて使う道具なので、当たり前といえば当たり前なんですが、それを自分の設計で食らったのは初めてでした。
部分修正ではなく、形から作り直す
検討した結果、細部をいじるのではなくボディの形そのものを見直すことにしました。

- 普通のギターに近い構え心地は残す
- ボディ下部に必要以上の切り込みは入れない
- ストラップピンは、可能な限りボディエンド中央に
- そのうえで、無理のない角度でチューナーに指が届く
正直、最後のひとつを足すのがいちばん難しい。今まさに、そのバランスを取り直しているところです。
1本目のボディは製品にはなりませんでした。でも、実物を作らなければ絶対に見えなかった問題が、はっきり形になりました。図面は嘘をついていなかった。ただ、図面には僕の指が写っていなかっただけです。
オリジナルギターづくりって、たぶんこういうことの繰り返しなんだと思います。作って、弾いて、触って、引っかかったところを直す。それも工程のうち。
次回は、この1本目からボディ形状をどう変えたのか、具体的な修正点をお見せします。
新宿 Music Bar Circleにて
8/8(土)
新宿 Music Bar Circleにて、末松のバースデーライブを行います!
25名限定の近い距離感です。一般チケット絶賛発売中です。
🚨ゲストにギタリスト
・浅見Kevin雄一朗
・大里健伍
お呼びしてます!初のギター大バトルとくとご覧ください!!!🎫
▼
https://kazutosuematsu.stores.jp
コメント